マクロトレンド:AIインフラ投資競争は「選別フェーズ」へ

シリコンバレーの空気は確実に変わりつつある。2023〜2024年にかけて怒涛の勢いで積み上がったAIインフラへのキャピタルアロケーション(資本配分)は、2025年後半から2026年にかけて「誰が本当に生き残るのか」という選別フェーズへと移行している。ハイパースケーラー(超大規模クラウド事業者)であるAWS、Azure、Google Cloudが独自のAIチップとLLM(大規模言語モデル)を武器に市場を押さえる一方、その隙間を狙うネオクラウド(neocloud)勢——CoreWeave、Lambda Labs、Crusoe Energyなど——が猛追する構図だ。

そうした中で最も異質な存在感を放っているのが、他でもないOracle(ORCL)だ。創業から半世紀近くを経た「データベースの老舗」が、AIインフラ企業としての再定義を試みている。The Vergeが報じているように、OracleはOpenAIとの大規模データセンター建設プロジェクトを中核に据え、いわば「ボートを燃やした」とも言える不退転の転換を進めている。ファウンデーションモデル(基盤モデル)を自社開発するOpenAIやAnthropicとは異なり、またAzureやAWSのような総合クラウドでもない——Oracleが狙うのは、AIエラにおける「特定の未来」に最適化されたSaaS(Software as a Service)+インフラのハイブリッドポジションだ。

Runrate(年換算売上高)ベースで見ても、OracleのクラウドインフラストラクチャービジネスであるOCI(Oracle Cloud Infrastructure)は急成長を続けており、同社の従来型データベースライセンス事業が緩やかに縮小する中で、その穴を埋めるどころか上回るペースでスケールしつつある。これは単なる事業転換ではなく、企業の存亡をかけたピボット(方向転換)だ。

主要プレイヤー:ラリー・エリソンの「AI賭博」とOpenAIとの蜜月

先月、サンフランシスコで開催されたAI infrastructure summitのサイドラインで、あるCVCファンドのパートナーと話す機会があった。彼は「Oracleがここまで本気だとは正直思っていなかった。ラリー(・エリソン)は自分の金を本当に突っ込んでいる」と語っていた。その言葉が示す通り、今回の動きはCEOのラリー・エリソン自身の強烈なコミットメントが背景にある。

OracleとOpenAIの関係は、単なるクラウドベンダーとカスタマーの関係を超えている。Stargate(スターゲート)プロジェクトとして知られる米国内の大規模AIデータセンター建設計画において、OracleはSoftBankやOpenAIと並ぶ主要パートナーとして名を連ねており、総投資額は$500B(約75兆円)規模に上るとされる。このプロジェクトにおいてOracleが担うのは、物理的なデータセンターの建設・運営という、まさに「シャベルを売る」ポジションだ。AIゴールドラッシュにおいてピッケルとシャベルを売るビジネスは、歴史的に見ても安定した収益源となりうる——しかし、それはゴールドラッシュが続く限りにおいての話だ。

Oracleのポジショニングで特筆すべきは、CoreWeaveとの類似性と差異だ。CoreWeaveはNVIDIA GPUを大量に調達し、ベアメタル(bare-metal)サービスとして提供するネオクラウドの代表格として2024年にIPO(新規株式公開)を果たした。OracleのOCIも同様のベアメタルビジネスに参入しているが、Oracleが持つ決定的なアドバンテージは、数十年にわたって構築してきたエンタープライズ(大企業)顧客基盤と、ERP(基幹業務システム)やデータベースとの深い統合だ。既存のキャップテーブル(cap table、株主構成)に名を連ねる機関投資家たちが評価するのも、まさにこの「既存顧客へのクロスセル(cross-sell)ポテンシャル」だろう。

さらに重要なのは、OracleがAIを単なるインフラとして提供するだけでなく、自社のSaaSスタック全体——Oracle Fusion、NetSuite、Cerner(医療情報システム)——にAIを組み込む「垂直統合戦略」を取っている点だ。これはMicrosoftがCopilotをOffice 365に組み込んだ戦略と本質的に同じであり、LTV(顧客生涯価値)を最大化する王道のアプローチだ。

市場反応:投資家は「信じていいのか」を測っている

株式市場のORCL株は、この1年で乱高下を繰り返してきた。AIインフラ投資への期待感から上昇する一方、設備投資(CapEx)の急増による短期的な利益圧迫懸念が売り圧力となる——この綱引きが続いている。アナリストコミュニティの間でも評価は割れており、「OracleはAI時代のIBMになる」という弱気派と、「OCIはAWSの本格的な対抗馬になりうる」という強気派が鋭く対立している。

注目すべきは、Oracleの年間契約残高(RPO: Remaining Performance Obligations)が急拡大していることだ。これはOpenAIをはじめとするAI企業との長期契約が積み上がっていることを示しており、単なる期待値ではなく「確定した将来収益」として計上されている。先週、あるヘッジファンドのAIセクターアナリストと話したところ、「RPOの数字だけ見れば、Oracleのクラウドビジネスは今が最も健全な状態かもしれない」と語っていた。ただし彼は同時に、「問題はOpenAI自身のビジネスモデルが持続可能かどうかだ。顧客が一社に集中しすぎているリスクは無視できない」とも付け加えた。

Microsoftとの比較も欠かせない。OracleはMicrosoftと同じく「AIネイティブではないが、AIをコアに据えた再定義に成功しつつある老舗テック企業」というカテゴリーに属する。しかしMicrosoftがAzureという確固たるクラウド基盤を持ち、GitHubやLinkedInという多角的な収益源を有するのに対し、Oracleの賭けはより集中度が高く、それゆえリスクも大きい。

私の見立て:Oracleは「AIバブルのバロメーター」たりうるか

私がOracleに注目する理由は、同社が「AIバブルが本物かどうかを測る最も正直な指標」になりうるからだ。OpenAIやAnthropicはプライベートカンパニー(非上場企業)であり、そのバリュエーション(企業価値)はVC(ベンチャーキャピタル)による主観的評価に依存している。NVIDIAはGPU需要の直接的な受益者であり、「AIが使われる限り儲かる」という構造だ。しかしOracleは違う。同社の業績は、エンタープライズ企業が「AIに本当にお金を払い続けるか」という意思決定を直接反映する。

The Vergeの報道が指摘するように、Oracleは従来のデータベース事業が「gracefully declined(緩やかに衰退)」する中で、AIという新たな成長エンジンに全てを賭けた。これはリスクであると同時に、明確なストーリーでもある。投資家にとっての示唆は明快だ——OracleのOCIクラウド収益成長率とRPOの推移を追うことは、AIインフラ需要の「実需」を測る最もクリーンな方法の一つだ。Series B以降のAIスタートアップへの投資判断においても、「そのスタートアップのインフラコストはOCIかAWSかAzureか」という問いは、コスト構造とスケーラビリティを読み解く重要な視点となるだろう。Oracleが成功するならば、AIは本物のビジネスインフラとして定着したことを意味する。失敗するならば——それはバブル崩壊の最初のシグナルとなる可能性がある、と私は見ている。